偽装請負というキーワードを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ITや建設の分野で問題になることの多いテーマですが、正確な知識を持っている人は少ないのではと思われます。
今回は偽装請負について、そもそもの概要、該当するパターンから、回避するための対策までを解説しましょう。
この記事を読めば、これまで曖昧だった部分がクリアになり、実際に役立つ知識となるはずです。
5分程度で読めますので、ぜひ最後までお付き合いください。
偽装請負とは
概要
偽装請負とは、クライアントと受託者の間で結ばれた契約の上では業務請負であるものの、実際は労働者派遣に該当するために違法となる状態を指します。
しかし、この説明ではあまりにも漠然としていますので、前提となる用語を説明します。
業務請負とは
業務請負は、クライアントが請負業者にある仕事を依頼し、請負会社がその従業員に指揮して仕事を完成させることを意味します。
ポイントは業務の指揮権限はクライアントではなく、請負会社にあるということです。
労働者派遣とは
労働者派遣は、派遣元が派遣先(クライアント)から依頼を受けて派遣労働者を派遣し、派遣先が直接派遣労働者を指揮して業務にあたらせます。
業務請負との違いは誰が労働者に指揮しているかという点です。
業務委託
業務委託とは自社で対応できない業務を、フリーランスなどの外部に任せることを指します。
業務委託は厳密には法律用語ではありません。
詳細な取り決めはクライアントと受託者との間で契約書を取り交わすのが一般的です。
業務委託の場合、クライアントと受託者の間に雇用関係はなく、受託者に業務上の指揮命令をすることはできません。
偽装請負が起こる理由
労働者派遣として契約する場合、派遣元の企業は労働者の時間外手当や社会保険料などを負担する必要があります。
これらの負担を避けるために、一部の企業は意図的に偽装請負に手を染めることがあります。
一方で、派遣元の管理不足により意図せずして偽装請負に該当するケースもあります。
しかし、意図していなかったとしても偽装請負に該当すれば、派遣元企業は罰せられます。
では労働者の観点で見るとどうでしょうか。
偽装請負で派遣された労働者には時間外手当が支給されません。
さらに社会保険や雇用保険のセーフティーネットにかかることができず、非常に不安定な立場に置かれます。
そのため、偽装請負は派遣元の意図に関わらず違法となるのです。
偽装請負に該当する状況と具体例
ここからは、偽装請負に該当するケースについて、その条件と具体例について説明します。
クライアントが派遣された労働者に何をしてはいけないのか、という観点でみていきましょう。
- 委託会社の責任者を通さず作業手順や段取りを細かく指定して作業にあたらせる
- 労働時間や勤怠の管理をする
- 業務の変更を命じる
- パフォーマンスの評価をする
- 作業に必要な設備や間接費をクライアントが負担している
従業員を客先常駐させるパターン
IT業界でのシステム開発でよくみられるパターンです。
開発者を客先のプロジェクトルームに常駐させてシステムを開発する際に、図らずも上記のケースに該当することがあります。
クライアントと派遣された労働者の距離が近いがゆえに起こる問題です。
受託した会社は責任者をつけて、労働者を正しくコントロールする必要があります。
再委託した業者を客先常駐させるパターン
受託会社からさらに別の会社に再委託して、労働者を常駐させるパターンもあります。
この場合は、誰の管理者が誰なのか、どの会社が指揮命令権を持っているのかが不明確になりやすいです。
プロジェクトの体制図を作成などして、メンバーの所属や責任の所在をクライアントと明確に合意しておく必要があります。
偽装請負の罰則
万が一、偽装請負と判断されてしまうとどのような罰則があるのでしょうか。
クライアントと受託者のそれぞれのケースを説明します。
クライアントが受ける罰則
偽装請負に当てはまった場合、クライアントは労働者派遣法の要件を満たさない業者から労働者を受け入れたことになります。
この場合に課される罰則は、行政指導、改善命令、勧告、企業名の公表です。
特に企業名を公表されてしまうと、コンプライアンスに疎い会社と見られます。
取引先のみならず、採用候補者からも敬遠されてしまうでしょう。
また、職業安定法の「労働者供給事業の禁止」の規定に基づき、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課されます。
受託者が受ける罰則
当然ながら労働者の派遣元の会社も偽装請負に加担したとして処罰されます。
労働者派遣法で定める許可を受けず、労働者派遣を行ったことの罰則です。
同様に職業安定法の違反にも該当し、罰則はいずれも「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となります。
偽装請負を避けるために注意すべきポイント
ここからは偽装請負を未然に防止するために、注意すべきポイントについてご紹介します。
業務の指揮命令系統
偽装請負でよくみられるのが、業務の指揮命令系統に関する事例です。具体例は数多くあります。
しかし、着目すべきポイントは1つです。
それは、クライアントが派遣元責任者を押しのけて指示を出していないかです。
この視点を持つと、作業指示や労働者の配置など派遣元責任者が決めるべき事項に、クライアントが介入しているかを判断できます。
業務環境の管理体系
こちらもクライアントが派遣元責任者を押しのけて指示を出しているかという視点で考えるとクリアになります。
例えば、労働者の評価や服務規律、勤怠管理など本来は派遣元の会社がやるべき仕事なのは、すぐにわかりますよね。
派遣元会社を押しのけて、クライアントが労働者やその環境を管理しているようなら、それは偽装請負です。
負担・責任の所在
労働者が業務を行う上での費用負担や、労働者がミスをした時の責任は派遣元会社が負うことが原則です。
責任の所在がクライアントや労働者自身になっていないかをチェックしましょう。
偽装請負の予防策
偽装請負を予防するには、クライアント及び派遣される労働者に対して偽装請負に当てはまる事例を周知しておくことが有効です。
プロジェクトの円滑な進行のため、クライアントが直接労働者に指示し、労働者もその指示を受け入れてしまいがちになります。
判断に困る場合は派遣元会社の責任者を介して、打ち合わせの場を設けるというルールを新たに作ると良いでしょう。
また、多くの事業者が参画する大規模プロジェクトでは、契約ごとに体制図を作成するのも有効な一手です。
体制図を作成することで、各労働者の所属や責任の所在が明確になり、知らぬ間に偽装請負になる事態を避けられるでしょう。
まとめ
今回は偽装請負に当てはまるケースや罰則についてご紹介しました。
偽装請負の怖いところは、クライアントと受託者が知らない間に偽装請負の状態になり、双方が処罰されてしまう可能性があることです。
偽装請負にあてはまるケースは多々あり、個々の判断は難しいかもしれません。
しかし「クライアントが派遣元責任者を押しのけて物事を進めていないか」という観点を押さえることで回避できます。
偽装請負に該当すると、クライアントと受託者双方が罰金や企業名の公表などの処罰を受け、大きなダメージを受けるでしょう。
コンプライアンスに則るためにも、クライアントと受託者の双方で偽装請負に該当するポイントを押さえ、予防策を講じることが重要です。
最後までお読み頂きありがとうございました。