仕事をしているどんな人も、定年まで確実に同じ事業主のもとで働ける保証などありません。
今や終身雇用という言葉はほぼ死語といっても過言ではなくなりました。
またライフスタイルの変化により、生活の中で仕事が占める位置は自分で決める、いわば仕事に縛られない生き方を選ぶ人も増えています。
そのような人にとっては、人生設計においては途中で仕事を変えようが問題はないのです。
さて、そんな仕事の変わり目に接する言葉の一つが失業保険です。
この給付金を活用できることでとても助かる反面、気を付けていないと不正受給の落とし穴に足をとられてしまう可能性もあります。
不正受給がいかに大きな問題でどんな危険性があるのか、どうすればトラブルを避けられるのかについて考えてみましょう。
失業保険の目的
まずは失業保険とはどのようなものなのか、そのメリットについてもおさらいしておきましょう。
労働者の雇用の安定や促進のための制度
雇用保険制度の失業給付金が、一般的に失業保険と呼ばれているものに相当します。大前提として雇用保険制度加入者に支給されます。
これは企業の都合であれ自己都合であれ、失業時に次の仕事が見つかるまでの生活費としてお金が支給される制度のことです。
この制度は労働者の雇用の安定や促進を目的としたものです。
すなわち、労働者が生活費のためにアルバイト等で就職活動に支障をきたしてしまうことを防ぐための制度なのです。
労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のために、失業された方や教育訓練を受けられる方等に対して、失業等給付を支給します。
引用:雇用保険制度|厚生労働省
生活費を心配する必要がない
失業保険の最大のメリットは、次の仕事が見つかるまでは金銭面の心配をする必要がないということです。
もちろん収入の全額を補償してもらえるわけではなく、そのうちの何割かの金額になります。
それでも全くゼロになってしまうことと幾らかでもあることは天と地ほどの差があるといえるでしょう。
このメリットによる経済的・精神的な負担軽減の効果は計り知れません。
仕事探しに集中できる
そして生活費を受給できるおかげで、労働者は短いタイムリミットに束縛されることなく転職活動に集中することができます。
失業保険は、時間的制約で妥協することなくより良い職場を確実に見つけ出すことに寄与するのです。
正しい受給のための注意点
万が一失業保険を不正な仕方で受給していたことが発覚すれば、大変な結果が生じてしまいます。
まず、どのような受給の仕方が理想的なのかを把握しておくことは大切です。
受給するための必要事項
退職後の雇用保険に関する手続きはハローワークで行います。
給付金を受給するためには、2種類の離職票、マイナンバー通知カード(個人番号カード)の原本、写真2枚、印鑑、銀行口座の通帳が必要です。
手続きや自身の状況に関しては、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」から確認することが可能です。
何らかの形で働くこと自体は可能
失業保険の目的は求職期間中に働かなくても生活を維持できるようにするためです。
とはいえ、アルバイトなり何かの手伝いをして収入を得ることが禁止されているわけではありません。
きちんと報告さえすれば失業保険を受給しながら家計のため働くことが可能です。
働く意思を示すことが前提
また、失業保険は働く意思があっても仕事を見つけられていない人のための制度です。
ですから、第三者から見ても本当に仕事を探しているという姿勢を示すことが前提となります。
具体的な方法は、ハローワークに通うことです。
給付金が振り込まれる28日間ごとに最低2回、ハローワークに行き転職活動中であることをアピールしていれば大丈夫です。
もちろんただアピールするだけではなく本当に仕事を探していることが理想です。
しかし、不正受給とみなされてしまわないよう転職に向けてのルーティーンは欠かさないようにしましょう。
「失業」とは、離職した方が、「就職しようとする意思といつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けず、積極的に求職活動を行っている状態にある」ことをいいます。
不正受給の事例と罰則
雇用保険の失業手当の不正受給はいわば詐欺行為に当たります。
実際にどのような行為が不正受給に該当するのか、例を挙げてみましょう。
受給資格を得るために虚偽の申告をする
不正受給の手口はほとんどが虚偽の申告によるものです。
どんな形であれ次の仕事が決まっていることや自営業の準備をしていること、個人情報その他あらゆる情報を隠してはいけません。
また重要なのは受給期間中の収入です。手伝いやフリーランスの仕事で得た収入もしっかりと申告しなければなりません。
20年間は時効とならず、マイナンバー制度によって本人確認をとられれば訴えられる可能性もあります。
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他人の雇用保険受給資格者証を利用する
より悪質なのは、紛失等によって他人の受給資格を利用したり、逆に他の人に自分の受給資格を貸したりすることです。
この制度本来の目的をあからさまに踏みにじる行為となりますので、当然ながら絶対にしてはいけません。
そもそも個人情報が漏えいするリスクが非常に高くなります。
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罰則
不正が発覚したらまずは受給停止、そして不正受給した金額の返却に加えその倍の金額を支払う必要があります。
つまり3倍返しです。こんなに利子の高い借金は普通誰もしたがらないでしょう。
支払いがすぐにできない場合には延滞金もかさむ可能性があります。
そして悪質と判断される場合には刑事告訴されることもありますので、いかなる方法であれ不正受給はしてはいけません。
密告の証拠となる情報とは
不正受給が発覚する多くのきっかけは第三者からの電話などによる密告によるものといわれています。
これらの証拠が少しでも揃えば、今やマイナンバー制度による情報の照合から不正受給はすぐにバレます。
誰にどのような証拠に基づいて密告されることが多いのかいくつか挙げていきます。
前職の人からの目撃証言等
まずはもともと同じ職場で仕事をしていた人が、受給者がアルバイトをしている等の現場を目撃したことを密告するパターンです。
アルバイトをすること自体は正直に申告してさえいれば問題ないものの、不正受給をしていれば何かしらの形でボロが出る可能性があります。
またSNS等から不正受給の証拠が出てくることもあります。
ハローワーク職員の内部調査による密告
受給者の状況について一番知っているのはハローワークに努める職員です。
やはり町で接する機会もある中で、不正受給者の不審な行動を目撃する可能性は少なくありません。
また職員による家庭訪問や聞き取り調査により発覚することもあります。
雇用主による密告
次の見出しにて述べますが、アルバイト等の雇用主による申告で発覚することもあります。
週20時間以上のアルバイトの雇用主は気を付ける必要があります。
雇用主が注意すべきポイント
現在、週20時間以上アルバイトをしている労働者には雇用保険に入る義務があります。
前提として雇用主は該当者を雇用する時にはこのことをしっかり熟知していなければなりません。
「31日以上継続した雇用を見込んでいること」
「週20時間以上の所定労働時間であること」
という条件を満たせば、正社員同様に雇用保険の加入手続きをとらなければなりません 。
時に失業保険の不正受給は事業所の帳簿などと受給記録その他の情報との照合の中で発覚します。
ですから雇用主は常にアンテナを張っておく必要があるといえるでしょう。
不正受給をほう助または指示した場合は、事業者にも同様の罰則が求められます。
まとめ
失業保険は労働者を守る大切な制度で、これによって多くの労働者は安定して雇用されることができます。
いわゆる失業保険を含む雇用保険の制度を不正利用する人は、いい換えるならば全労働者の敵ともいえます。
述べてきたように雇用保険には正直な申告が不可欠です。
申告漏れの理由は様々ですが、多くは「このくらいなら大丈夫でしょう」という軽く甘い考え方によるものです。
ですが少なくとも政府からお金を受け取るこの分野に関してはシビアに考え、申告漏れがないよう徹底していくよう心がけましょう。
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