どんな人も、自分の所有しているものを他人に壊されたり何らかの形で利用不能な状態にされるということは考えたくないでしょう。
そのような一人一人の所有物に関する権利を守る法的に定められた犯罪が、器物損壊罪です。
この器物損壊罪は他のあらゆる罪状と同様、一人一人を守るものにもなれば問われる側には多大な代償を求めるものとなります。
この記事では器物損壊罪に問われる側の立場から、この罪に問われないための対策法について解説していきたいと思います。
器物損壊罪の概要
器物損壊罪は私たちにとって特に身近な罪の一つですが、その詳しい定義について説明できる人はそう多くないのではないでしょうか。
まずは器物損壊とはどのようなことを指すのか整理していきましょう。
「器物」の定義とは
器物損壊罪は刑法261条に基づく法律で、他人の物を損壊または傷害した場合に適用される法律です。
この「物」に相当するものは多岐にわたる形あるもの一般を指します。
ただし文書・電磁的記録や建造物等には他の特定の法律が適用されるので、「物」とはそれら以外のものを指すということになります。
「損壊」の定義とは
次に損壊についてですが、この定義は器物がもつ機能を発揮できなくすることを指します。
例えばお皿を割ってしまった場合、これは誰がどう見ても損壊していることになります。
では、お店などのお皿を著しい仕方で汚した場合はどうでしょうか?
例えば誰もおしっこをかけられたお皿で食事をしたいとは思わないはずです。
お皿を所有しているお店の側からしてみれば、それはいわばお客に使うためのお皿が一枚使用不能にされる行為といえます。
ですからこの場合も、お皿本来の機能を害されたということで器物損壊罪が適用されます。
決してあからさまな破壊行為が関係するとは限らないという点を覚えておきましょう。
その他「損壊」の例
他にも法律上器物損壊の扱いとなる意外に思える例は以下の通りです。
- 他の人のペットを逃がす
- 掛け軸に「不吉」と書く
- ドリフトなどによりタイヤ痕をつける
- 所有する意思がないのに他人の携帯電話を持ち去る
意外にも動物は人の所有物に含まれるので、それが侵害されるとこの器物損壊罪が適用されます。
他にも本来所有者がその器物から受けられるはずの恩恵を失う場合、同様の扱いとなる可能性があります。
破損する意思がかかわる
器物損壊罪の法律上の大きな特徴、それは加害者の意思が大きく関わっているということです。
意思がない場合には成立しない
器物破損が成立するには、加害者がそうする意思をもちながら行為に及んでいたという条件が必要です。
つまり故意に破損する、故意に持ち去るなど何らかの動機に基づいて行われる行為です。
ですから、不注意による事故や不可抗力、過失によって器物を損壊してしまったとしても、器物損壊罪は適用されません。
あくまでもわざと他人を困らせる目的で物を破損する行為にのみ成立する犯罪なのです。
未遂は存在しない
器物損壊罪未遂つまりその行為をしようとしながら達成できなかった場合、それを罰する法律はありません。
必要な場合には器物損壊罪以外の他の規定を適用することになります。
ですから、器物損壊罪を適用する場面というのは意外にもだいぶ限られているということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
器物損壊は親告罪
さらにこの罪の大きな特徴の一つは親告罪であるということです。
告訴が無ければ大事には至らない
親告罪とは告訴が無ければ訴訟を起こすことができない犯罪を指します。
もちろんれっきとした犯罪であり好ましくないことですが、器物破損事件を起こせば即逮捕されたり起訴されるとは限らないのです。
必ず器物の所有者等による提訴が必要で、そうするかどうかは当事者に任されています。
これは考えてみれば当然のことかもしれません。
友達のものを壊した程度でいちいち検察官が調査し起訴するようでは、司法機関は一瞬にしてパンクし麻痺してしまうことでしょう。
処罰の内容とは
刑法第261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/器物損壊罪
最悪提訴された場合には、上記で定められている通りの処罰が下されることになります。
事件後の経過には大きな振れ幅が
器物損壊罪のこの大きな特徴は、事件後の経過に大きな選択肢を生じさせます。
被害者と加害者の間のやり取りや関係性によって事件の後処理の仕方が大きく変わってくるのです。
ですから、逮捕された時や慰謝料請求されたりした時にどのような対応ができるか知っておくことは重要であるといえるかもしれません。
大事に至る可能性は高くない
器物損壊は親告罪ですから、事件後であっても加害者は影響をできるだけ低く抑えられるかもしれません。
逮捕
一般に人が逮捕されることは、当人の身体的精神的負担や評判など社会的に大きな影響を生じさせることとなります。
最悪の場合その後の人生を大きく変えてしまうことさえあり得るものです。
大抵は被害者からの告訴があり、逮捕が必要かどうか十分に考慮されたうえで逮捕されることになります。
ですから基本的によほど重大な事件であったり器物損壊以外の罪が絡んでいる場合以外には逮捕されることは稀でしょう。
被害者の状況次第
他人のモノが壊されたかどうかというタイプの犯罪は、被害者の状況がその後の展開に大きく影響することになります。
つまり被害者の所有物が復旧できるかどうか、そして被害者の感情面でどれほど重大かということです。
実際警察もこれらの要素を十分に考慮して加害者の処遇を決めることになります。
示談・慰謝料
ですから加害者にとってまずできること、それは示談交渉をして告訴をされないよう被害者に誠意を示すことです。
示談金や慰謝料など不利な条件を提示される可能性もありますが、前科がつくなどのその後の影響に比べればマシでしょう。
ただしこの場合、破損した物に対し被害者がどの程度思い入れをもっていたのかという要素も大きく関わってきます。
大事に至る予感がある時にはなるべく早く弁護士を通して被害者と連絡をとることが大切です。
まずは反省していること、謝罪と賠償の意思があることをはっきりと表明しましょう。
逮捕されたときには
再犯を繰り返すなど悪質である場合には、逮捕され起訴されることもあります。
そもそもこの記事をご覧の方であればそのような悪質な行為を繰り返すことはきっとされないことと思います。
それでも万が一逮捕された時には、弁護士を通して被害者と連絡をとり、被害を回復していく行動を始めていく必要があります。
また器物損壊罪は意思をもたずになされた行為は罰さないことになっています。
単なる事故だったのか、故意に行ったことなのかをはっきり主張することも大切でしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
生きている限り、誰か他の人の所有物を壊してしまうことはあるものです。
それでも、この器物損壊罪はよほど誰かを困らせようと思っていないと至ることのない罪です。
あとは一時の怒りや思い付き、気まぐれによる犯行といったところかもしれません。
いずれにせよ、ごく普通の生活をしている限り逮捕されたり起訴されたりする可能性はほとんどないといえます。
逆の立場を考えても、普段から人の恨みを買うような言動は可能な限り避けることでこのような事件を未然に回避できます。
この記事をご覧の方が被害者にも加害者にもならず平穏に暮らせることを願っております。