大抵の方であれば自己破産という言葉を聞いたことがあるでしょう。
資本主義経済の日本に住んでいる限り、破産を避け自分の財産を適切に管理することは生きていくうえで不可欠です。
しかし本来考えたくもないそのような事実も、いつ直面することになるか分からないものです。
さて、いざ自分が自己破産の手続きを余儀なくされた時、よく注意していなければ罪に問われてしまうことがあります。
破産して家庭もプライドもボロボロになってしまった上、犯罪者として刑罰を受けたい人がいるでしょうか。
まずは自己破産が何のためにあるのか、そして主な破産犯罪や正しい手続きの流れについてもご紹介していきます。
自己破産
まずは自己破産のメリットとデメリットについて整理しておきましょう。
自己破産のメリット
まず、何といっても債務者は借金など多くの支払い義務から解放されるという点です。
そしてそれにより債権者からの支払いの催促や強要を受けることはなくなり、精神的・身体的にも守られます。
また、自己破産したからといって一文無しになるわけではなく、一定額の自由財産をもつことができます。
自己破産のデメリット
自己破産を躊躇う最大のポイントは、ブラックリスト入りかもしれません。
自己破産後5年から10年の間は新たな借り入れをしたりクレジットカードを所有したりすることができなくなります。
また破産者の住所氏名が官報と呼ばれる機関紙に掲載されることになります。
ただしこれはそもそも国民の誰もが見られるわけではないので、拒絶感は人それぞれかもしれません。
そして一部就くことのできない業種があるという点です。
制度の存在意義
自己破産という制度の目的は、誠実な破産者を経済的に更生させることと債権者の利益を最大化することです。
当然ながら人間には限界があります。あまりにも生活に困窮している場合、その家族も含め最悪の場合死に直面する可能性もあります。
誠実な人が経済的にすべてをリセットし、一からやり直す救済策が自己破産制度なのです。
また債務が免責されることにより債権者には不利益が及ぶことになりますが、この点でも保護する役割を果たします。
破産管財人は破産者の財産を最大限回収し、債権者に平等に利益が分配されるよう努めます。
まさにその時点で債務者と債権者双方が最大限恩恵を確保できるようにする制度ではないでしょうか。
破産犯罪
自己破産は多重債務者を救済するため破産法によって定められた制度です。
しかしどんな状態の人や財産であってもその恩恵を受けられるとは限らず、許可事由に沿う必要があります。
知っていなければ最悪の場合、破産犯罪という罪に問われてしまう可能性さえあります。
どのような行為に分けることができるのか見ていきましょう。
特定の債権者の優遇
自己破産という制度の目的の一つは、債権者の利益を最大化することとそれを平等に分配することです。
債務者が他の債権者に損害を与える目的で特定の債権者の債務を消滅させる行為はこの目的に反しています。
相当する刑罰は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金です。
説明責任をしっかりしない
犯罪を犯した人であれば黙秘権が認められていますが、破産者にはそれはありません。
救済の制度を申請している側の人なのですから当然といえば当然でしょう。
破産手続きを進めるにあたりそれまでの経緯や状況についてしっかり正直に説明することが必要です。
説明や検査を拒絶すること、また虚偽の文書を提出することは立派な破産犯罪です。
この類の行為をした人には3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科されます。
破産管財人等に対する職務妨害
破産管財人の役割は非常に重要です。
全債権者の利益を最大限化する責任と共に破産者の経済的更生のために手段を講じていかなくてはなりません。
ですから犯罪者にとっての警察官や検察官ではなく、むしろ公正中立な裁判官のような存在であるといえるでしょう。
このような立場にある破産管財人や破産管財人代理、保全管理人や保全管理人代理の職務を妨害することは犯罪です。
3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科されます。
贈賄罪
贈収賄は公的な役職の人に関係する犯罪の一つです。
厳密には第三者としての立場にある破産管財人等も、職務の内容からして公的役職にある人として扱われることがあります。
これらの人に賄賂を贈ることは当然ながら犯罪行為です。
収賄も犯罪であり受け取ってくれるとは限りませんし、もっとも賄賂にするお金があるなら少しでも返済の足しにするべきでしょう。
科される刑罰は以下の通りです。
前条第一項又は第三項に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(破産法第274条第1項)。
破産法第273条第2項、第4項又は第5項に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(破産法第274条第2項)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/破産犯罪
詐欺破産罪の代償
数々の破産犯罪について挙げましたが、これから述べる詐欺破産罪がそれらの中で最も重罪とされています。
手続きを開始してから詐欺破産を疑われてしまう、という事態にならないよう正しい知識をもちましょう。
債権者の不利益を目的とする行為
詐欺破産にあたる行為をする人の基本的な目的は、債権者の利益を害することです。
この悪質な動機を基とした以下のような行為が詐欺破産罪に相当します。
- 財産を隠したり損壊する
- 不当な廉価での売却など、財産の価値を減少させる行為
- 財産の譲渡や借金を仮装する
- 債権者に不利益な債務負担をする
どれも共通して本来破産管財人を通して債権者に分配されるはずの財産を減少させる行為に他なりません。
もはや自己破産以外の選択肢がなくなってしまった時点でこのような行動をするのは非常に危険な自殺行為であるといえます。
協力者も同様の罪に問われる
一つ覚えておかなければならないのは、債務者のみならずこれらの行為に協力した人も詐欺破産罪に問われるということです。
どういうことかというと、財産を不当に廉売したり不利益な債務負担した場合には必ず取引相手が存在します。
債務者の状況を知っていながらこのような協力行為を行った場合には同様の罪に問われます。
たとえ破産は遠い世界の話だと思っていたとしても、詐欺破産罪自体は案外身近な危険なのかもしれません。
刑罰
詐欺破産罪には10年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金が科されます。
他の破産犯罪に比べてまさに桁違いの量刑です。
しかしながら刑法上の処罰に留まらないのが詐欺破産の恐ろしいところです。
その他の影響
詐欺破産が発覚すると、免責が受けられなくなる可能性も非常に高くなります。
ざっくりいうならば免責許可が得られないために自己破産の恩恵を受けることができないということです。
刑罰を科された上に債務も消えないなど、泣きっ面に蜂状態も同然ではないでしょうか。
正しい手続きには弁護士が不可欠
自己破産の必要性を感じた時にはなるべく早く弁護士に相談することが、長い目で見て安全で安上がりな方法であるといえます。
安全
まず他の様々な法的手続き同様、破産に関する手続きは複雑なので個人では手に負えません。そのような人のために弁護士という仕事があります。
さらに見てきたような破産犯罪に問われるリスクを最低限に抑えることができるということです。
知識ある冷静な第三者が介入することで、不必要に犯罪者のレッテルを貼られる事態を防ぐことができるのです。
債務整理の方法は一つではない
もう一つは、破産ではない別の方法を見出せるかもしれないということです。
弁護士に相談してまず勧められることは債務整理に含まれる他の手続きでしょう。
債務整理には過払い金請求・任意整理・民事再生・自己破産という4つの手続きを含みます。
それらの詳細についてはこの記事では割愛しますが、自己破産はいわばこれらのうち最後に取るべき手段であるといえます。
たとえば任意整理は、裁判所を通さずに借金の減額の交渉を行うことができます。
まとめ
よほど特殊な状況でない限り、自分を助けてくれる人の手に火傷を負わせたい人などいないでしょう。
そのような人は助けられるに相当しないと思われても仕方ありません。
同様に自己破産の制度は誠実な人を救済するためのものであって、その目的をはき違え悪用する人には厳しい報いがあります。
そして場合によっては他の人を犯罪に巻き込んでしまう危険性もあります。
経済的な危機に陥った時こそ、慎重に考慮を重ねてからどう行動するかを決めることが重要です。