わが国では毎年のように入学試験や資格試験が多く行われます。
試験では長期にわたって勉強してきた成果を発揮し合格を目指そうとする方が多いです。
ところがごくたまに「替え玉受験」と呼ばれる不正行為が行われます。替え玉受験が発覚するとどのようなことになるのでしょうか。
今回は替え玉受験の防止対策や、発覚した場合の処罰などを見ていきます。
替え玉受験はどのような罪状や罰則が適用されるのか?
受験関係の際にたまに耳にすることがある「替え玉受験」。
もし替え玉受験をしてしまい、それが受験した大学などに発覚する刑罰はあるのでしょうか。
実は替え玉受験も、可能性によっては刑事罰になりえます。
替え玉受験は本来の志願者の代わりに、無関係の人物が試験に臨む行為です。
出願した受験生と替え玉役の人物が故意に大学などを欺くことになります。
そして出願の際は自分のハンコを押し、自分の写真と一緒に提出するのが一般的です。
このため「有印私文書偽造・行使罪」が適用されることがあります。
替え玉受験が発覚した場合のペナルティーとは
もし替え玉受験で試験を受け発覚した場合は、どのような処分があるのでしょうか。
実はカンニングなど不正行為の場合と同じく重い処分が待ち受けていると考えるべきです。
失格になることはもちろん、場合により自分の人生に暗い影を落とすこともあります。
発覚した時点で試験は失格に
まず替え玉受験が発覚した場合は、即座に受験した試験は失格です。
試験科目が複数の場合は、発覚した科目だけではなくすべての科目が0点となります。
また失格になることは、その時点で受験者が試験を受けられず、退席も命じられるでしょう。
加えてセンター試験の場合は、個別試験を受験する大学の選択肢にも大きく影響します。
国公立大学の場合はセンター試験の比重が大きいため、落第は間違いありません。
そして私立大学でもセンター利用入試は明らかに不合格となります。
このため私立大学の個別試験を受けるか、浪人するか大学をあきらめる選択肢となるでしょう。
刑事責任に問われた場合は懲役刑も
替え玉受験の程度があまりにも悪質な場合は、刑事責任に問われることになります。
刑事責任が問われる場合、上記の「有印私文書偽造・行使罪」の可能性は否定できません。
実際に有印私文書偽造・行使罪の判決となった場合、3ヶ月~5年の懲役刑となります。
加えて懲役期間に関係なく前科が残るため、将来に暗い影を落とすことになるでしょう。
替え玉役の受験生も退学や解雇の可能性も
替え玉受験が発覚した場合、替え玉役の受験生も処分の対象となります。
替え玉役となるのは、志願者と関係のある教師や先輩、家族などが多いです。
このため発覚した場合は、替え玉役の退学や解雇の可能性も十分にあります。
志願者だけではなく、替え玉役の人生にまで影響が及ぶ点が替え玉受験の怖いところです。
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これまでにあった替え玉受験の事例とは?
替え玉受験が発覚した例は、これまでにいくつか報告されています。
ここでは、事件として報道された替え玉受験のケースをいくつか見ていきましょう。
津田塾大女装替え玉受験事件
日本の替え玉受験事件で最も古いケースが、1975年に津田塾大学の入試で発生したものです。
受験生である女子高生の父親が替え玉となり、女装して答案を作成していました。
初日の時点で隣に座った受験生が、「男ではないか」と疑念を抱きます。そこで翌日に試験官がチェックして発覚したものです。
1975年の津田塾大学の入学試験で、受験生の父親で受験生の通う高校の英語教師が女装して替え玉受験した。
明治大学替え玉受験事件
1991年の明治大学入試での事件で、芸人のなべやかんら20人によるものとして知られています。
試験自体は無事に終了したものの、その後商学部2部の入学手続き中に発覚しました。
なお発覚のきっかけは、受験票の写真と学生証に使われる写真が明らかに異なっていた点です。
替え玉役が複数の有名私大の学生だったことや明大内部に仲介役がいたことでも騒がれました。
しかも替え玉依頼で大金が動いていたことも、世間を騒がせた一因です。
1991年の明治大学の入学試験で、人気有名人の息子ら20人の替え玉受験が発覚、明治大野球部元監督ら3人が逮捕された。
中央大学のケース
2009年の中央大学理工学部入試で発覚した替え玉事件で、ITが使われたことで注目されました。
志願者の写真と替え玉役の写真をパソコンで合成したものを受験票に貼り付ける手口です。
そして写真はどちらの人物にも見えるようになっていました。
入試自体は合格したものの、入学手続きの際に発覚し合格取り消しとなります。
なお刑事責任については、受験者たちが未成年だったために問われていません。
2009年の中央大学理工学部の入学試験で、ある志願者が自身と替え玉受験者の証明写真を、それぞれパソコンに取り込んで合成、できあがった写真を受験票に貼り、2人のどちらにも見えるよう工作していたことが発覚した。
建築施工管理技士試験のケース
替え玉事件は大学入試以外に、国家資格試験のケースでもあります。
2005年から2007年の建築施工管理技士試験で延べ10人分の替え玉受験が発覚しました。
このケースでは、大阪市内の資格スクールの代表者ら数名が替え玉として受験しています。
発覚したのは、出願書類の年齢記載と提出された写真が大きく異なっていた点が決め手です。
日本で行われている替え玉受験の防止対策とは?
替え玉受験は試験を開催する側を騙すだけではなく、実際に行った人物の人生をも左右します。このため極力未然に防ぐのが理想形です。
替え玉受験を防ぐための対策としては、受験票をチェックする方法があります。
また顔写真についても、条件を厳しくするのも方法の1つです。
基本的に受験票をチェック
替え玉受験を防ぐ方法に、受験者が持参した受験票をチェックする方法があります。
これは試験官が見て回り、受験票の写真と本人が一致するかどうかを確認するやり方です。
筆記試験で開始前や開始直後に試験官が受験票を確認する姿をよく見ます。実はそれこそが、替え玉受験を防ぐという目的で行われるものです。
なおチェックが円滑にできるように、受験票を見やすいところに置くように指示されます。
出願時の顔写真についても厳しく条件付け
また出願時に認められる顔写真にも厳しい条件が付けられるのが一般的です。
具体的には、3ヶ月以内に撮影したフルカラーで無帽のものというケースが多く見られます。
この条件であれば比較的最近の写真を提出するため、替え玉も簡単に見破れるでしょう。
なおメガネについても、撮影時と受験時で一致させる必要があります。
撮影時にかけていないのに、受験時にかけていた場合は替え玉と間違われるため注意が必要です。
中国で導入されている替え玉受験対策とは?
中国は日本以上に学歴社会である分、替え玉受験も多く発覚しています。このため中国では、日本以上に替え玉受験対策が綿密です。
替え玉受験対策で参考になる例として、中国で導入されている替え玉受験対策もご紹介します。
入試後に再試験を実施
中国では入試後に再試験を課している大学も多いです。つまり入試の点数と再試験の点数に開きがあれば、替え玉試験の疑いが出てきます。
山東省の済南大学では、2008年にこの方法を用いた結果、7人の替え玉受験が発覚しました。
身分証などの書類と照合
また受験者が提出した本人確認書類や受験資格証明書などと照合する方法も取られています。
いわば他の書類とのクロスチェックで、替え玉受験がされていないかをあぶりだす方法です。
この方法を用いた結果、戸籍証明を偽造して受験したものの不正行為も明らかとなっています。
なお偽造した受験者は、「両親の名前さえわからない」とまで告白していました。
顔認証の活用も
AIの導入が急速に進んでいる中国では、替え玉受験対策にもAIを活用しています。
顔認証システムで、公的機関に登録されている受験者の顔写真を紐づけて照合する仕組みです。
実際に中国の全国統一入試である高考(日本でいうセンター試験)に導入されています。
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まとめ
今回は大学入試などで見聞きされることがある替え玉受験の対策などを見てきました。
替え玉受験は一見、刑罰と関係ないように見えます。しかし実際は程度によって刑事罰が適用され、一定期間の懲役刑になる場合もある行為です。
もちろん替え玉受験を行うだけで、本人だけではなく本人以外の人生も狂わせます。だからこそ替え玉受験に安易に手を出すべきではありません。
替え玉受験を未然に防ぐには、主に試験官が受験票をチェックする方法が一般的です。
ただしほかにも、出願時の写真に厳しい条件を付ける方法もあります。
加えて中国では日本以上に厳しい方法もあるため、それらも合わせて参考になるでしょう。
替え玉受験は未然に起こらないようにすることが最も理想的です。そのためには受験票などのチェック体制を構築しておくことが欠かせません。
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