セクハラ、パワハラ、アルハラなどハラスメントについて見聞きする機会は多いです。
この中で妊娠した女性に対するものに、マタハラ(マタニティ―ハラスメント)があります。
マタハラは被害に遭った女性だけではなく、胎児や子どもにも悪影響を及ぼす行為です。
マタハラを防止するには、どのような方法があるのでしょうか。
マタハラが発生する原因とは
妊娠した女性に対する嫌がらせであるマタハラ。厚生労働省に2018年度に報告されただけでも約2100件にも及ぶ数字です。
頭では「やってはいけない」とわかっていても、実際には多くの職場で発生しています。
マタハラについて知るには、まずどのような背景があって発生するのかの理解が大切です。
マタハラが発生する原因には、主に以下の3つが挙げられます。
伝統的な性役割の価値観
マタハラの原因として最初に挙げられるのが、伝統的な性役割の価値観です。
日本では古くから「男性が外で働き、女性は家庭を守る」という考え方があります。
このような伝統的な考え方は、社会や働き方、人生観の変化で大きく変わってきました。
現に男女雇用機会均等法などの整備・改正で、女性が働きやすい環境が整備されてきています。
しかし中高年の男性の中には、いまだに上記の考え方を持つ人もいるのも現状です。
出産・育児と仕事の両立が理解しにくく、彼らが上司の場でマタハラが発生する場合もあります。
長時間労働を美徳とする考え方
また日本独特の長時間労働を美徳とする考え方も、マタハラが発生する原因の1つです。
妊娠すると体調の変化もあって、妊娠前ほど長時間仕事するのが難しくなってきます。
本来であれば時短勤務などで勤務時間を減らし、母子ともに負担を減らすのが理想的です。
しかし妊娠女性の勤務時間が減ることにネガティブな考え方も根強く存在します。
短時間勤務や育児休業を利用する妊娠女性を妬んだ社員によるマタハラ行為も多いです。
女性同士のわだかまり
マタハラは男性だけでなく、女性が行うこともあります。具体的に未婚の人や妊娠していない人によって引き起こされるケースです。
妊娠女性が産休などを活用することを「特別扱い」とみなし、マタハラに至ります。
実際に女性上司が妊娠した部下に対してマタハラ行為に及ぶ例も多いです。
マタハラが起きるタイミングはいつ
マタハラが以上のような原因で起こることを見てきました。今度はマタハラが具体的にどのタイミングで発生するのかについてご紹介します。
主なタイミングとして妊娠報告や育休取得時、育休明けの3つで発生するケースが多いです。
妊娠を報告する際
最初に妊娠した従業員が、上司などに妊娠報告する際が挙げられます。
当然ながら従業員は妊娠報告と合わせて、今後の働き方を相談するでしょう。
この際に昇進がないことを仄めかしたり、サービス残業を免除しなかったりする場合もあります。
ひどい場合は妊娠を理由に退職を勧めるケースもあり、こうなると悪質です。
ほかにも出産に至る時期までに、妊娠を理由にしたパワハラを受けるケースも見られます。
産休や育休を申請する際
出産日が近づいたり出産報告したりして産休や育休を申請する際も、マタハラが起きやすいです。
上司や同僚から負担が増える旨や妬ましい気持ちをぶつけられて、深く傷つきます。
また妻の出産を理由に育休を取得しようとした男性もマタハラの標的になることも多いです。
このような場合、上司が育休を取らせないようにさまざまな圧力をかけるなどします。
産休や育休が明けて職場復帰する際
さらに産休や育休が明け、職場復帰する際もマタハラが発生しやすいです。
具体的には出産や育児を理由として降格や左遷、人事考課でのネガティブな評価に及びます。
育児と仕事の両立を望む従業員に対して、傷つく言動や嫌がらせを受けるケースも多いです。
中には解雇や自主退職に至るような悪質な例もあります。
マタハラと同様に厄介なマミートラック
マタハラ以外にもマミートラックという事態に陥ることもあり、こちらも厄介です。
こちらは出産後ひと段落した後、キャリア面で不利益取扱いや嫌がらせを受けることを指します。
具体的には出産や育児を理由に出世や昇進が望めないような状態に追われることです。
この場合、妊娠・出産した女性の今後の人生にも大きく響いてきます。
マタハラの形とマタハラといえる発言
マタハラは具体的にどのような形で発生するのでしょうか。マタハラを理解するには、発生する形を知ることも大切です。
マタハラには、制度を理由にしたものと妊娠女性の状態を理由にしたものがあります。
制度を理由にしたもの
制度を理由とするものは、産休や育休などの制度を動機に嫌がらせする行為です。
「育休を取ってずるい」とか「産休など甘えるな」といった発言が挙げられます。
また「育休取られると私たちの負担が増える」と伝えるのもマタハラです。
妊娠女性の状態を理由にしたもの
制度以外にも、妊娠女性の状態を侮辱・揶揄する形でのマタハラもあります。
「妊娠なんて羨ましい」や「妊娠したから会社のお荷物」などの発言は明らかにマタハラです。
「妊娠で体調が悪いのではクビ」や「妊娠したのならパートになれば」もマタハラに当たります。
マタハラを防止する方法とは
マタハラは被害に遭った側をさまざまな面で深刻に傷つける行為です。
それではマタハラを防止するには、どのような方法があるのでしょうか。
マタハラを防止するための方法として、主に以下の3つが挙げられます。
マタハラを理解する機会の提供
最初に挙げられる方法が、職場などでマタハラを理解する機会を設けることです。
マタハラは認知される機会が増えてきたとはいえ、まだまだ深く理解されるに至っていません。
そしてマタハラが横行する背景の1つに、マタハラに対する無理解があります。
このためマタハラを未然に防ぐには、まずマタハラへの理解が重要です。
具体的には新人研修やエグゼクティブ研修の中でマタハラを扱う機会を増やします。
ただ単にマタハラを説明するだけではなく、防止措置や罰則に至る理解が重要です。
就業規則への明記
また企業の就業規則でも、マタハラについて明記することも重要といえます。
具体的にはマタハラ行為に及んだ場合に、会社として厳正な処置を行う態度を示すことです。
就業規則にマタハラ行為への処置を記すだけでも十分な抑止効果が見込めます。
というのも、明記されているだけで従業員はマタハラ行為に対する危機意識を持つためです。
相談窓口の設置など具体的な対策
さらにマタハラへのより具体的な対策を策定し、実行することも重要になってきます。
いち早くできることが、相談窓口の設置です。実際に職場内でマタハラへの相談窓口があるだけでも、女性従業員は非常に安心します。
また相談窓口を設けること自体、会社として本気でマタハラ対策を行っている表れです。
ほかにもマタハラ行為が起きたときの対処法を決めておきます。
具体的に事実確認の手順やマタハラ被害者をケアする方法、加害者の処置が重要な項目です。
対処法を決めてあると、マタハラ行為が起きたときにスムーズに対応できるでしょう。
マタハラに対する罰則とは
マタハラ行為は基本的に職場など内輪で発生するため、法律と無縁のように見えます。しかしマタハラ行為は、れっきとした違法行為です。
男女雇用機会均等法や労働基準法、育児介護休業法に抵触します。
いずれも妊娠・出産や産休・育休を理由にした不利益取り扱いを禁じる内容です。
またマタハラが発覚した場合は企業名が公表されるほか、20万円以下の過料が科せられます。
企業名の公表に至れば、加害者も社内でしかるべき処分を受けることになるでしょう。
まとめ
妊娠や出産を理由とした嫌がらせであるマタハラの防止策や原因などを見てきました。
マタハラが発生する背景には、伝統的な価値観や長時間労働などが挙げられます。
そしてマタハラ自体も、制度を動機としたものと状態を動機にしたものが主です。
マタハラを防止するには、まずマタハラそのものへの理解が欠かせません。
また就業規則への明記と相談窓口の設置など具体的対策も有効です。
マタハラは被害が従業員のほか、子供にも及ぶ厄介なものといえます。
そして職場でマタハラに対処するには、全社的な取り組みが必要です。
特に経営者や上司はマタハラをよく理解し、しかるべき対策を講じることが大切です。