あなたがもし交通事故を起こしてしまった場合、どんな行動を取るでしょうか?
多くの人は怪我人を確認したり、救急車や警察を呼んだりといった行動をすると思います。
ただ、これらの行動は良心によって行われるだけではなく、事故現場における怪我人への対応は法律で義務付けられているのです。
これに反すると場合によっては交通事故とは別に刑事罰や違反点を付けられることになります。
今回はそんな交通事故における救護義務違反について解説していきます。
救護義務違反とは?
まずは救護義務違反がどういうものであるかを見ていきます。
救護義務と報告義務
救護義務は道路交通法第七十二条第一項に定められています。
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。
引用:昭和三十五年法律第百五号 道路交通法
つまりは交通事故が起こった時には負傷者の救護と被害拡大の防止を優先すべきというものです。
また、同項には報告義務として以下も定められています。
当該車両等の運転者は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
引用:昭和三十五年法律第百五号 道路交通法
こちらは事故に関わった者は事故現場の状況説明をすぐ警察に行わなければならないというものです。
そして、これら二つに違反することは救護義務違反となります。
救護義務違反に気付かない場合
救護義務違反は一般的にはひき逃げと呼ばれる行為にあたります。
負傷者が出ているのにもかかわらずそれを無視して警察に連絡せずに逃げることは明らかに救護義務違反です。
では、仮にひき逃げに気付かなかった場合は救護義務違反となるのでしょうか?
救護義務違反が成立するのは加害者が違反を犯した認識をしているかどうかです。
なので、加害者が予想できない範囲で気付かず起こったひき逃げは救護義務違反とならないこともあります。
だからといって気付かなかったと嘘をつくと、真実がわかった時により虚偽の報告をした分の刑罰が与えられるものです。
近年はドライブレコーダーなどの映像証拠もあることから本当に気付かない状況と立証できなければ違反になります。
目撃者・同乗者における救護義務
運転手には救護義務が発生するのは当然ですが、事故現場を目撃した者や同乗者についてはどうなのでしょうか?
ここでは事故現場に居合わせる可能性のある二つについて見ていきます。
目撃者
救護義務はあくまで事故の当事者に義務付けられるものです。
従って例え事故の現場を唯一目撃した人でもその人には救護義務や報告義務は生じません。
常識で考えると協力する方が良いかもしれませんが、法律違反でないことは当事者の義務との大きな違いです。
同乗者
事故の当事者に義務が発生するならば運転をしていなかった助手席や後ろの席の同乗者はどうなるのでしょうか?
同乗者は先ほど紹介した条項における「その他の乗務員」にあたるため、運転手と同じく救護義務が発生します。
ただし、車の主導権を持っているのは運転手であり、運転手が無視すると同乗者も必然的に違反になってしまうものです。
裁判等で同乗者が救護義務違反にあたるかどうかは運転手との関係性などを参考に判断されます。
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被害者
条項を見ると気付いたかもしれませんが、事故の当事者というのは加害者だけではなく、被害者も含まれています。
あまりないパターンですが、被害者側が何らかの理由で事故について黙っていても救護義務違反になることがあるのです。
これは被害者も事故の具合によっては相手から見て加害者となり得ることからそのように書き方になっています。
救護義務違反の刑事罰と付加点数
救護義務違反を犯した場合、刑事罰と行政処分として違反点数が付与されます。
刑事罰
救護義務違反における刑事罰は違反の種類によって異なります。
- 救護義務違反の義務が課せられる者への責任……5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 救護義務違反の事故に起因する者への責任……10年以下の懲役又は100万円以下の罰金
- 報告義務違反……3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
一番目の「義務が課せられる者」には被害者も含まれるものです。
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違反点数
交通違反をすると付けられる違反点数も救護義務違反をする時に加算されるものです。
救護義務違反の点数は「35点」となっています。
更に救護義務違反が関わる事故によって発生した違反についても違反点数が加算されるので、実際はもっと点数は大きくなるものです。
ひき逃げ自体の点数は35点ですが、以前にも違反をしていれば、その点数も累積されます。
引用:救護義務違反(ひき逃げ)の点数と免許の取消
場合によってはこれに関わる事故一回で、免許の停止や取り消しなどの行政処分になってしまいます。
救護義務違反の損害賠償と過失割合
ここでは救護義務違反によって後遺症の残る怪我や死亡する事故に場合の損害賠償や過失割合について見ていきます。
損害賠償と過失割合
救護義務違反で被害者が死傷した場合、裁判では損害賠償を請求することがあり、その金額は過失割合によって決定されます。
過失割合は事故の起こった状況によって変わるものです。
例えば被害者側が赤信号で道を横切っていたというような事実があると被害者側に過失が発生します。
反対に加害者が飲酒運転をしていたなど救護義務違反以外の面での違反があれば加害者側の過失が大きくなるのです。
過失割合の判断は警察ではなく、自動車の保険会社や弁護士、裁判時には裁判官が事故の資料を基に行います。
7割以上の過失
加害者の損害賠償の額が減額される条件は被害者側に7割以上の過失があることが基準と言われています。
割合の判断は先に書いたように資料を見る人によって変わっていきますが、被害者側に7割以上の過失があるのは相当高い状況です。
また、加害者側に重大な過失がある事例では被害者側の過失を相殺して、加害者側に10割の過失があると判断されることがあります。
事故状況と共に相手を死傷させた要因が過失割合を大きく動かす要素になっているのです。
その他にも死傷者の年齢や将来性などを加味して過失割合と損害賠償額が判断されていきます。
救護義務違反に関する時効
救護義務違反に関する時効は以下のようになっています。
- 過失運転致死罪……時効10年
- 救護義務違反……時効7年
もし事故によって被害者が死亡していた場合、救護義務違反の方が先に時効が成立します。
現代では現場検証の技術や映像証拠など犯人の特定のしやすさは向上している状態です。
それでもひき逃げ犯が特定できずに時効で苦しむ被害者家族は多くいます。
片方の時効が成立すれば仮にその後で捕まったとしても本来の罪より軽い処罰となるのです。
ひき逃げ犯からすればこの時効の差は逃げ得になりますが、被害者側では不利な要素となっています。
まとめ
今回は救護義務違反についてまとめていきました。
事故を起こしてしまった時は焦燥感から正常な判断ができないこともあるかもしれません。
しかし、法律ではそんな当事者に関係なく、救護義務や報告義務が発生するのです。
これらを守ることで助かる命もあることから事故現場では正しい対応をするようにしましょう。
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